Love my bouncer

楓零軒さんの小説「メメントモリ」についての考察・感想を書きます。

ケーゴ分析①

話はメメントモリの話に戻ります。

 

※※以下の文は既に本作品を読まれた方向けのお話になりますので、

作品のネタバレを含んでおります。予めご注意を。

 

 

 

ここでは本作品の中で私が特に大好きな人物である、

渋沢景護(以下、ケーゴ)について書いていきます。

個人的にケーゴの好きなところは

・スペックの高さ

・センスがいい

・洗練された佇まい

・伝わりにくい愛情表現

・冷静で的確な状況把握能力

・傍若無人で孤高

こんな感じです。

ただ、メメントモリシリーズを通して、ケーゴの心情は大きく変わっていきます。

私の記憶を思い起こす為にも、

物語全体の顛末を大きく分けて主にケーゴについて考えて書きたいと思います。

仮に

Ⅰ 登場

Ⅱ 様子見期

Ⅲ 闇期

Ⅳ 同居期

としましょう。(ネーミングセンスなくてごめんなさい。)

 

まず、

Ⅰ 登場期。『目障りだ』とミヤコを殴る場面ですかね。

ケーゴは灰色の雰囲気を纏っていて、ある意味では地に足がついたソリッドな雰囲気を感じます。主観的(ミヤコ的)には悪印象を持ちますよね。

 洗練された、というのが私的ケーゴの好きな表現です。確かツバキさんが言っていましたね。

『西洋の不機嫌な王子の有名な絵画を思い出した』が、いつもどの絵だろう、と考え検索しますが、どれもあまりしっくりきません。私のイメージはルネサンス期の宗教画です。

この頃の灰色の雰囲気には(諦め、欲しいものへの苛立ち、愛への嫌悪、支配欲、堕落、自己犠牲)がぶわっと感じられてそんなケーゴも好きです。

 

Ⅱ 様子見期。特に名前のつけようがなく様子見にしましたが、エージが死ぬあたりまでのことです。ミヤコにとってはわりと幸せな時期ですね。

細かい好きな場面については後々言及していきたいので、ここでは省略します。

ここではミヤコが塾終わりに喫煙所~カラビンカで会う場面、クラブのVIPルームでみんなと遊ぶつかの間の楽しそうな場面、ツバキが捕まりその復習に動いた仲間にぶち切れ、ミヤコの首をしめる場面などがあります。

特に私は、ミヤコに対して何度か言う「エージに関わるな」が印象的です。

この段階ではケーゴは全知全能の神のように思えますが、その神が幸せの中のミヤコに不穏な忠告をしてきます。

既にケーゴはミヤコの言う「永遠」に関心を持っており、興味対象となっていたと思います。

ケーゴは終始相反する感情を持っています。自分が諦めていた 永遠 というものをミヤコが証明してくれるかもしれない、という期待の感情。しかしその一方で、ミヤコはエージの心にあるもう一人のミヤの代わりに過ぎないのではないかと思い、ミヤコに上記の忠告をしています。これはミヤコが傷つかないため、と私は解釈しています。

ミヤコのことはこの段階ではどう思っていたのでしょうか。

仲間意識というものはないでしょうし、おもしれー女というのもなにか違う気がします。自分の世界を根底から覆してくれる気がする人。ワクワクするけどイライラもする。といった感じでしょうか。

 

Ⅲ 闇期。エージの死から退院までとしましょう。この部分は読むのが辛くて他の章と比較して実は読み返した回数はちょっと少ないです。

最近はエージの死の裏側に思いを馳せて読んでいます。

エージのくしゃくしゃになった携帯電話は、エージにこの町を去ると聞き、苛々と壊すケーゴが目に浮かびます。やっぱり少しミヤコに同情もしている気がします。

エージは死んだ、というガレージの場面、悲しくて綺麗ですよね。

窓を叩く雨音、薄暗い部屋で行為中の男女。ぐしょ濡れで立ち尽くすミヤコ。

ミヤコの肌の痕を指でなぞるケーゴは、ケーゴは…どんな気持ちだったのでしょう。

そして、ミヤコ病み期に入ります。この時期、ケーゴは基本的にめんどくさがっているようにしか見えません。(騙しておいてひどい)

ミヤコが記憶が飛んでも、自傷行為をしても、昏迷となっても、入院してもなんとも思っていなさそうです。

ここから退院を迎えに来るまでの間に何か心境の変化があったように思えます。

これはおそらくですが、描写は出てきませんがミヤコの入院中に、ケーゴは恭ちゃんに連れられてミヤコの実家に行っています。ここでのミヤコの親たちの態度を見て、ここにミヤコを返したくない、と思ったと推測しました。

この段階では、文中でケーゴ本人が言っているように、本当にボランティアに近い感情だったと思います。しかし、この行動をきっかけにミヤコに再び関わり、惹かれていったのではないでしょうか。

 

Ⅳ 同居期~終。ガレージに住むあたりからは、ケーゴも気付かないうちにミヤコへの  好き が漏れていて、読んでいる私はとんでもない顔でにやけていることでしょう。

ケーゴがミヤコに惹かれている、と気付くのはだいぶ終盤です。恋愛感情の自覚のない人の行動は恐ろしいものです。

親切な(?)ケーゴはミヤコに『エージの言うことは信じるな』『あいつの言うことは吐く息以外全部嘘だ』と、いいますが、たしかにケーゴは基本的に嘘はつきません。その代わり言いたくないことは言いません。これは作品中で他のGPのメンバーと対比になっているな、と感じます。

たしかにエージは嘘つきで、でも根はいいやつなのが伝わるから誠実に見えるタイプですね。ツバキさんは人を選んで嘘をつくタイプでしょうか。敢えて言わない、という選択肢もとる優しさを持つ人です。愛さんは嘘をつくつかない以前に嘘が下手なので素直でしたね。ミヤコは__騙される側の人だと思います。でもミヤコもちょこちょこ嘘ついてますよね。ノーマルな人間、ということにします。

この章では、昔のように冷酷なだけではなく、ケーゴの感情(動揺、嫉妬、失望、悲しみなど)が一番よく見えます。随分分かりやすい人間になりましたね。

ミヤコ退院後、運転中の会話の場面でのケーゴには成長も感じます。

 

以上、まとまりはまったくありませんが、大まかに振り返りました。

この作品での恋愛は、よくありがちな”はじめから好きだった”、"不思議と惹かれ合った"というような直接的で直感的な表現というよりは、出来事を通して徐々に変わる登場人物のリアルで繊細な心境がちょっとした行動から考察できるところが面白いと思います。

私の勝手な感想なので、作者の方含め読者の方で、ちょっと違うという部分や私の記憶違いの箇所がありましたら、ご意見いただけるとうれしいです。

今回は以上ですー